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横浜地方裁判所 昭和40年(行ウ)12号 判決

原告 日本道路公団

訴訟代理人 帯谷政治 ほか一名

被告 亡藤巻権三郎

訴訟承継人 藤巻四郎

主文

神奈川県収用委員会が昭和四〇年八月七日別紙物件目録記載の土地について裁決した損失補償額金五六、九一九、九九四円を金四一、二一九、五四八円に変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一本案前の抗弁(不起訴合意)について

被告は昭和三九年一一月一三日に原告と被告の被相続人藤巻権三郎間で本件判決に従い一切不服申立等をなさない旨の合意が成立したと主張するが、右主張に添うような〈証拠省略〉は信用できず、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。かえつて、〈証拠省略〉によれば、原告は第三京浜道路建設のため横浜市の保土ケ谷地区の用地の買収にあたつたが、藤巻権三郎所有の本件土地を除き、用地の全所有者約八五〇名と原告との間で用地の任意買収につき合意が成立し、爾後右権三郎と原告間の個別交渉が何回となくおこなわれたが、なかなか妥結を見なかつたので、前記道路の開設が遅延するのを防ぐために早期に妥結を図るべく、神奈川県および横浜市が両者の斡旋をしたが、結局交渉がまとまらなかつたために、昭和三九年一一月一三日の神奈川県庁における話し合いで、右任意買収の交渉を打切り、神奈川県収用委員会の裁決を求めることになつたことを認めることができるのみである。これによれば、右会談当時原告と藤巻権三郎間には右収用委員会の裁決が出ればそれで最終的に解決されるであろうという期待はあつたとしても、被告が主張するように右裁決の結果が如何なるものであれ一切不服申立をしないということまでの合意が取りかわされたとは認めることができない。

第二本案について。

一、請求原因一および三項の事実は当事者間に争いがない。そして。〈証拠省略〉によれば、本件一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一、一四二番の五の土地は本件裁決当時資材置場として利用されうる程度の状況にあつたことが窺われるから(後出(二)(1) 参照)、本件裁決当時における該土地の現況は当事者間に争いのない土地収用法第三六条所定の土地調書作成当時の現況たる雑種地から変容をみなかつたものと認めるべく、その余の本件土地の本件裁決当時における現況も、特段の事情のない限り、前期土地調書作成当時の現況をそのまま維持していたものと認めるのが相当である。

二、以下に、本件裁決の当否を判断する。

ところで、およそ、土地収用に伴う損失については「近傍類地の取引価格等を考慮して、相当な価格をもつて補償しなければならない。」とされている(昭和四二年法律第七四号による改正前の同法第七二条)。ここにいう「相当な価格」とは、客観的社会的評価における価格、換言すれば、収用の目的物の一般的有用能力によつて定まる一般的交換価格を指称し、それは物の一般的利用価値を前提として定められるべきものである。

されば、「相当な価格」を定めるには、客観的にみて当該目的物の合理的且つ現実的な利用方法はどうかという観点に立つて評価することを要し、将来の予測についても、現実に立脚した実現性のある通常の用途として考えられる範囲内でのみ考慮すべく、したがつて、特定人の特殊用途による予測、または実現性の乏しい特異な利用方法を参酌することは許されない。また、「相当な価格」は前述のとおり客観的社会的な評価を基本としなければならないから、所有者の一身的事情に基づく、あるいは単なる主観的な期待利益の如きを排除すべきことは当然である。このような見地に立つて本件土地について順次検討する。

(一)  本件七〇番の土地について。

(1)  地勢、位置等について原告主張の(イ)(事実摘示第二、〔甲〕、三、(一)、(イ)を指す。以下同様に、当該箇所の直接の頭符号のみを用いる。)の事実は公有水路の巾員を除き当事者間に争いがなく、同(ロ)のうち本件七〇番の土地が北西向の斜面であつて、原告主張の一団の宅地および国道と高低差のある不整形地であることも当事者間に争いがない。

そして、〈証拠省略〉を総合すれば、次の事実を認めることができる。

本件七〇番の土地はもと旧七〇番山林一反四畝九歩(一、四一八・一八平方米。本件においては裁決および当事者の主張とも旧面積表示法に従つているので、理由の部でも、右表示法に従う場合がある。)の一部であり、昭和四一年六月一〇日同番の一山林一三七平方メートル、同番の二山林一、一八七平方メートル、同番の三山林九三平方メートルに分筆され、同番の二について同日、昭和四〇年八月七日収用を原因とする原告名義の所有権移転登記が経由されている(したがつて、本件七〇番の土地の現在における正確な地番は七〇番の二である。)。同番の一は本件七〇番の土地の北東側、同番の三は本件七〇番の土地の南西側に位置している。本件七〇番の土地は、ほぼ北西側に位置する、もと素堀りの巾員一・四五間ないし一・四八間の公有水路を隔て、一二一番(その北西側は一二二番の一に接する。)および一二六番の一の宅地(「一二一番等一団の宅地」)に接し、右公有水路に接する本件七〇番の土地の裾地部分は繁茂していたかなりの急傾斜地であり、人が登るときに蛇行しつつ木につかまらねばならぬほどであつた。本件七〇番の土地のうち東南側の隣地七一番、六九番の畑に接するその余の部分は右裾地部分ほどではないが、七一、六九番の畑に比し北西向の傾斜地であり、当該土地部分が南端において六九番に接する箇所は国道より一五メートル高い。これに対し、一二一番等一団の宅地は平坦であつて、国道との高低差はない。このように、本件七〇番の土地は全体としてかなり傾斜のある山林であつた。本件七〇番の土地の北東側に隣接する七〇番の土地の残地(現七〇番の一山林一三七平方メートル)も、その南東側の隣地七二番、七一番の畑に接する南東側部分はゆるやかな傾斜地となつているが、前記公有水路に接する面は、その北東側の隣地七六番の畑の公有水路に接する面とともに、一部が約四五度もある急斜面であり、樹木が生茂つている。

本件七〇番の土地の東南側等に隣接する上掲土地の状況をみるに、七一番、七六番の畑地の残地部分は、本件七〇番の土地の北東側につくられた第三京浜道路のインターチエンジに丸く囲まれた台地の一部となつており、七六番の残地部分は北西向の緩やかな斜面となつており、七一番の残地部分は概ね平坦となつている。七一番、六九番の収用部分はほとんど平坦であつたが七一番の方が六九番に比し若干傾斜をなしていた。七六番の収用部分は前記公有水路に接しているところから、右接する面はかなりの急傾斜をなしていたが南東部分は比較的緩やかな北西向の傾斜地であつた(このような状況からみても、本件七〇番の土地は南東側から北西向、国道方面に緩やかに傾斜し、公有水路近くに至つて相当な急傾斜を示す台地の一角にあつた土地であることが推測される。)

右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  本件七〇番の土地の評価について

(A) (裾地部分に対する本件裁決の評価方法の当否)

本件七〇番の土地のうち裾地部分につき本件裁決はその隣接する、国道に沿つた一二二番の一の宅地を基準として評価し、被告はこれを正当として支持すべきことを主張し、原告は本件七〇番の土地のその余の部分とあわせて、前記七六番もしくは七一番、六九番の畑を基準として評価すべしとする。

前記〈証拠省略〉によれば、藤巻権三郎は昭和三四年二月一八日訴外鶴見油脂株式会社に対しその所有の岡沢町一二一番宅地(現況)四六坪五合四勺、一二二番ノ一宅地(現況八九坪一合六勺)、旧一二六番の一(田《現況宅地》四畝一五歩)の一部六五坪七合三勺(即ち、「一二一番等一団の宅地」)をガソリンスタンド鉄骨モルタル塗建物および構築物所有の目的で、昭和三四年三月一日より三〇年の期間の定めで賃貸し、本件裁決当時、一二一番等一団の宅地は鶴見油脂株式会社が契約所定の目的に従つて使用していたこと(その後、旧一二六番の一の土地は昭和四一年三月三一日同番の一の土地(登記簿の地目は田)二畝九歩と同番の三の土地(登記簿上の地目は畑)二畝五歩に分筆され、鶴見油脂株式会社の賃借地の一部に該当する同番の三の土地について同年四月二五日藤巻権三郎と原告間の昭和四〇年二月六日付売買を原因とする原告名義の所有権移転登記が経由されていること、前記賃借地を構成する一二一番、一二二番の一の土地も同時に原告に売渡されたこと《以上によれば前記一団の宅地に属する一二六番の一の宅地の現在の正確な地番は一二六番の三である。》)を認めることができる。右認定を左右するに足る証拠はない。右認定事実によれば、一二一番等一団の宅地の一般的利用方法は店舗用地ないし商業地であるとすることができる。

ところで、〈証拠省略〉によれば、本件裁決は、本件七〇番の土地の裾地部分について、一二一番等一団の宅地の裏地所であるから、裏地所は表の半額程度とみるか、あるいは本件のような場合には店舗住宅、小修理工場兼住宅の敷地としての利用を一般的に考えうる一二一番等一団の宅地の裏地所としての一体的利用に資しうるから表の六〇パーセント程度の価格を有するものとし、一二一番等一団の宅地の価格一三六、五〇〇円の六〇パーセントに当る八一、九〇〇円から造成工事費坪当六、九〇〇円を控除して坪当七五、〇〇〇円を裾地部分の相当価格としたことが認められる。本件七〇番の土地に関する本件裁決を廻る論点は、まず、本件裁決が裾地部分をその余の部分と区別した上、一二一番等一団の宅地と関連付けてその利用方法を理解して価格を算定したことの当否にあるので、以下に判断する。

(イ) 本件七〇番の土地の北西側は国道に沿つた一二一番等一団の宅地に隣接するという位置関係にあるが、その間に巾員一・四五間乃至一・四八間の公有水路(本件裁決当時は暗渠)が存することは前記のとおりであつて、本件七〇番の土地の裾地部分と一二一番等一団の宅地が場所的に乖離していることを否定できないのみならず、証人藤巻四郎の証言によれば、本件裁決当時藤巻権三郎は正規の申請を提出して右公有水路の専用権を取得していなかつたことが窺われるから(右認定を左右するに足る証拠はない。)、両個の土地は一括利用の目的を達すべく充分に架橋されていなかつたものとすべきである。

(ロ) 本件裁決時において一二一番等一団の宅地は鶴見油脂株式会社が藤巻権三郎からこれを賃借しており、賃借権の存続期間はなお二二年余を残していることは前述したとおりである。そうとすれば、本件裾地部分は、その所有者こそ右一団の宅地の所有者と同一人であるとしても、右一団の宅地に法律上強力な他人の利用権が存する以上、これを右一団の宅地とあわせて一画地として利用しうる土地として扱うことはできない。

(ハ) 右(イ)(ロ)に認定した事実および前記(1) で説明した本件七〇番の土地の位置、地勢をあわせ考えると、本件裁決が本件七〇番の土地のうちの裾地部分をその余の部分と区別して、表地所たる国道沿いの一二一番等一団の宅地と関連付けてその利用方法を理解して価格を算定したことは、裾地部分が国業に近接することを重視する余り、国道沿いの一二一番等一団の宅地と裾地部分との場所的関係その他の現実に充分に思いを到さず客観的にみて合理性ある利用方法の観点を見失つたものであつて、適当でない。本件七〇番の土地の地勢上一般的に予測される利用方法は住居用地としてのそれであると認めるのが相当である。

(ニ) 仮に一団の宅地の借地権者が同土地と裾地部分を一画地として使用し得るとしても、それは特殊な価値であつて、一般的なものとすることはできない。また、〈証拠省略〉によれば、訴外梁瀬自動車株式会社が国道に沿う表地所である一二七番の一の土地の一部、一三二番、一三三番の各土地を昭和三五年四、五月ころ藤巻権三郎より賃借し、公有水路を挾んだ裏側の六四番の一の土地を昭和三六年中に被告より賃借して、一箇の事業場として使用していることが認められるが、六四番の一の土地の地勢の具体的な様相が明らかでないから、右の事例は、右に認定し得た程度では、これをもつて本件七〇番の土地の裾地部分の利用方法を一団の宅地と関連付けて理解することを正当とする根拠となし得ない。さらに、証人藤巻四郎の証言と検証の結果によれば、鶴見油脂株式会社が昭和四一年二月ころ藤巻権三郎から前掲(1) の七〇番の一の土地の一部を賃借し、職員の住宅を建設して使用していることを認めることができるが、右の土地の利用方法は居住用地としてであることは明らかであつて、たまたま一団の宅地の使用者と職員住宅の敷地の使用者が事実上一致するという関係はあつても、後者の土地利用を店舗用地ないし商業地たる前者の土地利用と関連付けて考察しなければなちないものではない。

(ホ) そうであるとすれば本件裾地部分について一二一番等一団の宅地の価格を基準とした本件裁決はたとえ右基準地より四〇パーセントの減価をしたとしても、なお失当たるを免れないというべきである。

(ヘ) おわりに、本件裁決は裾地部分の宅地造成費を坪当六、九〇〇円と積算しているが、合理的根拠を欠く。

今、本件七〇番の土地について宅地造成をするとした場合における造成費を試算してみるに、証人堀淳の証言およびこれにより成立を認めうる甲第五一号証によれば、本件七〇番の宅地造成費は別表(四)のとおり坪当一一、六〇〇円を要することが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右造成費の認定に合致する原告の主張を一種の作図以外の何物でもなく、そのような造成を考える必要はないと論離する被告の主張は、具体的根拠に立脚したものと認められない。むしろ、前掲証拠によれば、右一一、六〇〇円を要する宅地造成法はとりわけ高価な特別の方法によるものでもなく、また他に安価にできる工法もなく、一方本件裁決のいう坪当六、九〇〇円では切土および盛土それに石積工事が少しできる程度であることが認められるのであつて、被告の前記主張は失当とするほかない。

(B) (その余の部分に対する本件裁決の評価方法の当否)

本件七〇番の土地の裾地部分を除くその余の部分につき本件裁決は七一番、六九番の畑を基準とし地価上昇率ならびに金利を加算して修正して価格を算出したことは当事者間に争いがない。

ところで、右価格の算定に当り、本件裁決は当該土地部分を住居用地とみつつ、伐根費、傾斜による減価を考慮した形跡がなく、また、山林は宅地造成上農地よりも高く評価されているとの見地をとつている。

しかし、(イ)当該土地部分が前認定のとおり七一番、六九番に比し傾斜地であり、しかも山林であるため、宅地造成をするに際して伐根費を要し(証人藤巻四郎の証言によれば、本件七〇番の土地上の樹木については藤巻権三郎において別途に立木補償を受けて伐採したことが認められるが、さらに右証言によれば、藤巻権三郎がした伐採は切株を残したままであつたことが認められるから《この認定を左右するに足る証拠はない。》、宅地造成に当り伐根費を必要としたことは明らかである。)、且つ有効面積が減少するということを考慮に入れなかつたことは失当とすべきである。

(ロ) 宅地造成をするばあい対象土地が農地である場合には当時施行中の農地法第五条の規整を受ける(即ち、同条は農地を農地以外のものにするため権利を移転する場合には都道府県知事の許可を得ることを要し、右許可あるまでは権利移転の効力を生じないものとするから、農地を宅地に造成するため権利を取得しようとするときは右許可を得ることを必須要件とする。)から、その限りで、対象土地が山林である場合の方が宅地造成上の法的障害が少いことは否定できないが、このような規整の有無から不動産取引上山林の方が農地よりも高く評価されることを認めるに足る証拠はなく、かえつて、〈証拠省略〉によれば、第三京浜道路、東海道新幹線の用地買収例および民間の売買実例は別表(二)、(三)のとおりであつて、山林は畑に比しいずれの地域においてもその評価は低いものであつたことを認めることができるのであるから、この点に関し本件裁決が採用した前記のような見方は事実に立脚せず妥当性を欠くものということができる。

(C) (原告の主張の当否)

原告は、本件七〇番の土地をとくに裾地部分とその余の部分とに区分することなく居住用地として一体として評価すべきものとし、七六番の畑地あるいは七一番および六九番の畑地を基準とし、それぞれ伐根費を控除し、あるいは傾斜地であることを減価要素として考慮し、その評価額を算定すべきものと主張する。

そこで原告の右主張の当否を判断すると、(イ)検証の結果によれば右七六番の収用土地は本件七〇番の土地と国道からほぼ等距離にあることが認められ、且つ前認定のとおり右七六番の収用土地は公有水路に接する部分が急傾斜をしているが、その裏側はそれに比し、比較的ゆるやかな傾斜であること、傾斜面方向が同一であることの点において類似しており、また、七一番、六九番の土地は本件七〇番の土地に隣接するほぼ平坦な土地であるから、本件七〇番の土地と地勢が類似しており、その価格を本件七〇番の土地価格を算定する基準とすることができる適性ある土地である。

(ロ) この点に関し、被告は七一番の土地は狭い耕作道があるのみで、藤巻権三郎所有の七三番の土地を通過しなければ公道に通せず、もちろん公道には出られず、また六九番の土地は袋地であるのに対し、本件七〇番の土地は被告主張のように道路状況が良好であるから、七一、六九番の土地とは比較にならないと主張する。然しながら、七一、六九番の各土地の通路状況が右被告主張の如くであることを立証するに足る証拠はない〈証拠省略〉また、本件七〇番の土地をふくむ分筆前の旧七〇番の山林一反四畝九歩について、国道に結ぶ横浜市民病院側面裏側の市道に通じる巾員六メートルの舗装道路がある旨の被告の主張に添うような〈証拠省略〉は当該道路の具体的状況が判然としないので、そのまま採用することができない。さらに〈証拠省略〉よれば、本件裁決当時、前記(A)の冒頭で説明した現一二六番の一田二畝九歩に該当する旧一二六番の一土地の一部およびその西南側隣地である一二七番の一の土地の一部はともに藤巻権三郎所有の国道に面する新地であつたこと、藤巻権三郎は本件裁決以前に梁瀬自動車株式会社(同会社が一二七番の一の他の一部、一三二番、一三三番を藤巻権三郎から賃借していたことは前記(A)(ニ)において説明した。)に対し、駐車場として賃貸していたが、期間は六ケ月の短期間であつて、これを更新していたもので、藤巻権三郎においてたやすく明渡を求めうる状況にあつたことを認めることができるが、藤巻権三郎において右一二六番の一、一二七番の一の各土地の全部または一部に道路を開設することによつて本件七〇番の土地から国道に通ずることができる旨の被告の主張は、前記のとおり公有水路に接する面において急傾斜地となつている本件七〇番の土地に対し実現性のあるいかなる技術的措置を施すことによつて当該道路と接触することができることとなるかが解明されない以上、そのまま採用することができない。

その他に本件七〇番の土地と七一番、六九番の土地の宅地としての懸隔をいう被告の主張はこれを証すすべき資料がない。

以上の次第であるから原告が本件七〇番の土地を評価するにあたり、全体として七六番の畑もしくは七一番と六九番の畑を基準とすべしと主張することは首肯できる。

(D) (価格の算定)

(イ) 〈証拠省略〉によれば、七六番の畑の坪当買収価格は四四、三〇〇円、六九番の畑の坪当買収価格は五二、五〇〇円、七一番の畑の坪当り買収価格は四六、〇〇〇円であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(ロ) ところで、本件七〇番の土地は山林であるから、畑地たる七六番の価格から伐根費相当額を減価すべきであるところ、該伐根費は証人堀淳の証言と弁論の全趣旨によれば、別表(五)のとおり坪当二、三〇〇円が相当と認められる。被告主張のようにブルドーザーを使用して切土とともに伐根工事を行なうことは十分考えられるけれども右は大規模な宅地造成のばあいであつてそれが通常いかなる場合でもなされるわけでもないから、伐根費を考慮する必要がないとはいえたい。また、被告は原告の現実に要した伐根費を控除すべしというが、損失補償は裁決時に算定されるものであるから一般的に伐根費を算出し、右相当額を控除したとしても何ら差支えないものである。そうすると、七六番の畑の坪当買収価格四四、三〇〇円から坪当伐根費二、三〇〇円を差引くと四二、〇〇〇円なる価格が得られる。

(ハ) 次に、(証拠)(大蔵省管財局長通達「普通財産売払評価基準について。」)、〈証拠省略〉によれば、大蔵省売払基準は、土地を評価するにあたり民間の取引においても用いられていること、大蔵省売払基準には、傾斜が二〇度乃至四〇度に及ぶばあいは二〇パーセントの減価をなすべきものとしていることが認められ、右のような傾斜地についても当該の場合の需給に限定が生じないという特段の事情がない限り、一般的交換価値を探究する土地収用の価格の算定に当り右の取扱に準拠することが許されるものと考える。そして、本件旧七〇番の土地の北東側部分たる現七〇番の一の土地の公有水路に面する斜面は一部において四五度であること前認定のとおりであるから、本件七〇番の土地の裾地部分もこれに近い傾斜があつたと見て差支えない。そして、その余の部分は裾地部分に比し比較的緩やかな傾斜であつたことも前認定のとおりであるから、結局七一番、六九番の畑の価格から本件土地の価格を比準するに当つては原告主張の比率一五パーセントを減じても妥当を欠くことはないといいうる。そうすると、七一番、六九番の畑の前記価格の平均坪当単価四九、二〇〇円から一五パーセント減価して、四一、八二〇円が得られる。これは、前記(ロ)の四二、〇〇〇円に近似する価格である。

(ニ) おわりに、七一番、六九番の畑の買収価格を基準とする場合、該価格から宅地造成に要する費用を控除することの要否を考えるに、本来、本件七〇番の土地のような傾斜地についてこそ宅地造成費を考慮する必要があるが、該宅地造成費は斜面のばあい切土、盛土、四方の擁壁の石積等に要する費用であつて平坦な土地についてはほとんどその費用を要しないのであるから、七一、六九番の土地について宅地造成費を考慮しないとしても不当でない。

(ホ) 以上によれば、本件七〇番の土地の価格は坪当四二、〇〇〇円であると認めるのが相当である。

(二)  本件一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一、一四二番の五について。

(1)  地勢、位置等について。

原告主張の(イ)の事実につき当事者間に争いがない。〈証拠省略〉によれば、昭和三二年一二月一七日に告示された都市計画決定により横浜国際港都建設計画街路の一環として本件四筆の土地附近の国道の拡巾が決まり、右国道に接する本件四筆の土地はいずれも国道より三メートルの巾員の部分が右計画街路内の区域となつたことが認められる(右認定を左右するに足る証拠はない。)

そして、右区域内においては、「階数が二以下で、かつ、地階を有しないこと」等の要件に該当する建物で、「容易に移転し、又は除却することができるものでなければ、建築してはならない。」旨の建築制限があることは建築基準法第四四条第二項の規定上明らかである。また、〈証拠省略〉によれば、本件四筆の土地のうち一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一の土地については、訴外藤巻工務店の材料置場としてときどき使用させていたことはあるが、それ以外の方法で常時利用されていたわけではたいことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  本件裁決の内容に関する原告主張の(2) の事実は当事者間に争いがなく、右事実および〈証拠省略〉によれば、本件裁決は、本件四筆の土地は国道を隔てて南西側に在る前記一二一番等一団の宅地と同程度に新市街地として発展するであろうけれども、現況そのままでは利用しにくい状態にあるとし、ただ市道のつけかえをすることにより本件四筆の土地を本件三五一番の土地と一体として使用できるし、前記一二一番等一団の宅地の買収価格の七五パーセントに当る坪当一〇二、三七五円をもつて相当としたことが認められる。

(3)  本件四筆の土地の評価について。

(A) (本件裁決の当否)

(イ) 〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、もし本件裁決の想定するような市道のつけかえをすると、訴外藤巻勝雄所有の三五七番の三の土地が盲地になるおそれがあること(但し区画整理をして道路を開設して市道に通ずる措置を構ずることはできないことではない。)、公有水路もこれに伴い移動させねばならず、相当の工事費を要すること、市道が右つけかえにより直進性を失つてしまうことを認めることができるのであつて、しかも右のような措置を構ずるためには、道路管理者の許可、隣接地主の同意が必要であるところ、ことの性質上それが得られるという一般的保証はないと認めるのが相当である。そうとすれば、市道のつけかえなるものはその実現性は薄いというべきである(右の点は、本件四筆の土地の評価をした収用委員会の委員であつた訴外一橋新一郎も同入の証言のなかで、右つけかえは簡単にできるものではないことを認めている。)。

さらに〈証拠省略〉によれば、本件四筆の土地に隣接する国道は交通量が非常に多く、このことが一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一の土地が常時利用されていなかつた一因であつたことを認めることができ、〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、一四二番の五の土地を除いたその余の土地は国道に面する間口が約五八・四メートル、奥行の最長距離は約八メートルであつて、しかも全体は鋭三角形地であることが明らかであるから、たとえ総面積が約七〇坪余であり、また、国道に広く接している南向きの土地であるとしても、これを一二一番等一団の宅地の如き奥行も三〇メートル近くある正方形に近い土地と同視することはできない。このことと前記(1) で説明した都市計画制限による利用可能な面積の縮減をあわせ考えると、一四二番の五の土地を除いたその余の土地は合理的な店舗、居住用地として適するものではないということができる。一四二番の五の土地もその地形、地積、建築制限の諸点から上記と同様に考えることができる。実際において、一四二番の五の土地を除くその余の土地が前記(1) 認定のとおり常時利用されていたものでないこと、一四二番の五の土地に至つては従前の利用状態すら明らかでないことは叙上の判断を裏付けるものといわなければならない。

(ロ) 〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、本件一二二番の二の北東側に接する岡沢町一二〇番の二の宅地(公簿上田一畝歩)は訴外藤巻喜代司の所有地であり、これは本件一二二番の二と一二五番の一の土地を合わせたものとその地勢、形状において類似はしており、右一二〇番の二の宅地上には軽量鉄骨造りの建物が存すること、右建物はドリーム・ランド(横浜市戸塚区所在)前売券発売所として利用されていることを認めることができるが(右認定を左右するに足る証拠はない。)、右一二〇番の二の土地は、前記各証拠によれば、本件一二二番の二の土地等に比し奥行は広いことが認められるから、直ちに対照に用い得るか疑問であるのみならず、同土地の右の如き利用状態をもつてはたして有効な居住、店舗用地としての利用と目し得るといえるかも問題である。

(ハ) さらに、〈証拠省略〉によれば、同人所有の岡沢町三〇三番、三〇四番、三〇五番、三〇七番の各二合計四筆の土地を原告が同人より昭和四二年五月ころ坪当一四〇、〇〇〇円で買つたことを認めることができるが、右土地が本件四筆の土地と地勢、立地条件において類似していることを認めるに足りないから、被告主張の右価格の時点修正(被告は右修正をなすにあたつて、(証拠)《財団法人日本不動産研究所発行の地域別六大都市々街地価格推移指数表》による平均地価上昇率を用いているけれども、証人石飛三郎の証言および弁論の全趣旨を総合すれば、附近の地価は第三京浜道路が開設されたことによりその前後に亘り急騰している事実を認めることができるから、被告の時点修正は必らずしも適切とは言い難い。)を検算するまでもなく、右売買事例を根拠にして、本件四筆の土地の価格を一二一番等一団の宅地のそれに比較してさして差異のないものとする被告の主張は失当である。

(ニ) 被告は、本件四筆の土地につき前記のような建築制限があつても、普通建物の建築が可能な限り価格に大した差はなく、店舗、居住用地を問わず五〇坪前後の普通建物建築用地がもつとも取引の対象として喜ばれ高価に取引されるというけれども、前者については、建築制限のあることは不利益な要素となることを自明であるし、後者については、土地の形状を一切捨象した議論であつて土地の現実にそぐわない失当なものである。また、被告は、一二一番等一団の宅地の一部も国道拡巾予定地となつているにもかかわらず、右一二一番等一団の宅地については原告が右の点を減価要素として考慮したいで買収していることは均衡がとれないというけれども、前認定のとおり一二一番等一団の宅地は本件四筆の土地に比し奥行がはるかにあるのであつて、三メートルの建築制限部分を設けられたとしても差程該土地の利用に支障を来すものではないから、右被告の主張は本件四筆の土地との形状の相違を看過した失当なものというべきである。

(ホ) 以上によれば、本件裁決は将来の不確定且つ特異な利用方法を想定し、また、本件四筆の土地の形状、地勢、建築制限による利用上の事実的、法律的制限を過少評価したか、または、これを看過して価格を算定したものであつて、合理性を欠くものといわざるを得ない。

(B) (価格の算定)

(イ) 本件四筆の土地につき、一二一番等一団の宅地の価格坪当一三六、五〇〇円を基準としつつ、本件四筆の土地が奥行短少であること、三角地であること、合理的な店舗または居住用地でないこと、都市計画決定に伴う建築制限があることを減価要素として考慮し、それぞれの要素につき一七、二〇、二〇、二〇パーセントを減価(計算方法別表(六))すべきものとする原告の主張は相当というべきである。

(ロ)また、本件四筆の土地のうち一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一の土地は、前認定のとおり、四〇センチの高低差のある市道と国道にはさまれた土地であるから、現状のまま利用することは困難であつて、国道と同平面の宅地に造成して利用するのが相当であると考えられるところ、〈証拠省略〉および弁論の全趣旨を総合すれば別表(七)のとおり坪当一、六六〇円の宅地造成費を要することを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。被告は右造成績を要する工事中の盛土、石積を不要とするが、右所見は採用できない。

右(イ)(ロ)によれば、一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一の土地の価格は坪当五五、七〇〇円となること計算上明らかである。

(ハ) 一四五番の二の土地はその地勢上宅地造成を要しないものと認められるが、極端に不整形地であることを考慮し、その余の土地と同額の坪当五五、七〇〇円をもつて相当とする。

(三)  本件三四九番、三五〇番の土地について。

(1)  地勢、位置等について。

原告主張の(1) の事実は本件三四九番、三五〇番の土地が市道との高低差のある土地であることおよび公有水路の巾員の点を除き当事者間に争いがない。

〈証拠省略〉を総合すれば、本件三四九番の土地は旧三四九番の一畑約七六〇坪のうち公有水路に接する法面であつて、一部は右水路面下にあつて、右水面底は市道から四〇乃至五〇センチメートル低かつたこと、本件三五〇番の土地は南東向に傾斜している旧三五〇番宅地四四〇坪のうち大部分が公有水路に接する畑長い土地であり、藤巻権三郎の庭の縁に当り、市道より一乃至一・五メートル高く位置していたことを認めることができ、右認定に反する〈証拠省略〉は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  本件三四九番、三五〇番の土地に関する本件裁決の内容について当事者間に争いがたい。そして、〈証拠省略〉によれば、本件裁決は、一二一番等一団の宅地の価格を基準とし、且つ本件三四九番、三五〇番の土地が本件一二二番の二等四筆の土地に比し使用しにくいことを考慮し、右四筆の土地が右基準地の七五パーセントの価格であるとしたことから、それよりさらに一〇パーセント低めに本件三四九番、三五〇番の土地の価格を見積つたことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(3)  本件三四九番、三五〇番の土地の評価について。

(A) (本件裁決の当否)

本件裁決によれば、本件三四九番、三五〇番の土地は一二一番等一団の宅地の価格の六五パーセントが相当であるというところ、原告によれば、むしろ岡沢町三五七番の三および同番の二の土地の価格を基準として本件三四九番、三五〇番の土地の増価ならびに減価要素を考慮して価格を算定すべきものとする。

ところで、(イ)一二一番等一団の宅地は前認定のとおり国道に面した平坦な正方形に近い形をした商業用地であるのに反し、本件三四九番、三五〇番の土地は前認定のとおりの地勢、形状を示しており、たとえ本件三四九番の土地が公有水路を隔てて直接国道に面することにおいて一二一番等一団の土地に類似していても、なお一二一番等一団の宅地を基準とするには余りにも条件が相違しすぎるというべきである。

(ロ) 本件裁決は本件三四九番、三五〇番の土地が公有水路に接している点を有利な要素としてとらえ、しかも証人一橋新一郎の証言によれば、本件三四九番、三五〇番の土地の評価にあたり右水路を通路とするために必要な暗渠または架橋工事の費用がかかることは何ら考慮されていないことを窮うことができるが、水路に接することはその土地を宅地として利用するとき排水の点で利益になることはあるが、右の工事費用を全く考慮しないということは妥当でない。

(ハ) 以上によれば、本件裁決は、本件三四九番、三五〇番の土地につき、具体的個別的減価要因が存するにかかわらず、これを看過し、漫然一二一番等一団の宅地の価格の六五パーセントと評価したものであり、結局具体的な評価、算定の根拠なくしてなされたきらいがあつて、妥当でないというべきである。

(ニ) 被告は本件三四九番、三五〇番の土地の評価は各収用前の土地全体の評価を基準とし、それと同等の価格をもつてすべきであると主張する。しかし、前記(1) の認定事実によれば、本件三四九番の土地は収用前の土地全体の〇・五パーセント、本件三五〇番の土地は収用前の土地全体の一二パーセントの割合を占めるにすぎない地積であり、かつ、その地勢からしてそれ自体独立して利用できない土地であることが明らかである。これに対し〈証拠省略〉を総合すれば、本件三四九番、三五〇番の土地の収用残地は畑あるいは宅地としてなお相当の地積を保有し、ことに本件三五〇番の残地についていえば、当該残地から直接道路に出られることを認めることができ、右認定事実によれば、本件三四九、三五〇番の土地の収用残地は本件三四九番、三五〇番の土地を収用によつて喪失してもその効用には殆んど影響を受けなかつたというべきである。そうとすれば、収用部分と残地を一体として評価し、それと等価格の単価をもつて収用部分を評価することは合理的でないとすべきである。

(B) (原告の主張の当否)

(イ) 原告は岡沢町三五七番の二、三の土地を基準として本件三四九番、三五〇番の土地を評価すべきであると主張するので、その妥当性につき判断すると、〈証拠省略〉を総合すれば、三五七番の二、三の土地は別紙図面表示の箇所に位置こすると、訴外藤巻武所有の三五七番の三宅地四〇坪二合四勺は市道と公有水路を隔てて接しているが、国道には接していないこと、訴外藤巻明所有の三五七番の二宅地四〇坪七勺は右同番の三の土地の裏側に位置する土地であることが認められるので、本件三四九番、三五〇番の土地とは比較の対象とならないかの如く考えられるが、前掲証拠によれば、原告の買収に当り三五七番の二の土地は同番の三の土地と同一に坪当七六、二〇〇円と評価されていること、両土地とも本件三五〇番の土地とは本件三五一番の土地を間に挾んで近接して位置していること、三五七番の二、三の土地と本件三四九番、三五〇番の土地とはいずれもその南東側において公有水路と接していることが認められ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、叙上の諸点を考慮すれば、三五七番の二、三の土地の価格を基準として本件三四九番、三五〇番の土地を評価すべきものとする原告の主張は首肯できる。

(ロ) なお、原告は三五七番の二、三の土地の価格は一二一番の一等一団の宅地の価格の五五パーセントを下らない旨主張する。そして、〈証拠省略〉と弁論の全趣旨によれば、三五七番の二、三の土地の面接する市道の路線価が国道のそれの六〇パーセントであること、三五七番の二、三の土地が墓地(三五七番の三の土地の北東側に隣接する墓地)に近接することおよび整地が不完全であることが認められるから(右認定を左右するに足る証拠はない。)、これらの事実および三五七番の二、三の土地が全体として公有水路に面することをそれぞれ減価要素としてその価格は一二一番等一団の宅地の価格の五五パーセントを下らないとすることは妥当であるといわなければならない。

(ハ) 被告は本件三四九番、三五〇番の土地附近の類似せる土地の売買事例を挙げて原告の算定を非難しているけれども、(a)訴外藤巻十三所有の岡沢町三〇三番の二、三〇四番の二、三〇五番の二、三〇七番の二の各土地の売買事例が参考にならないこと前記(ニ)(2) (A)(ハ)で説明したと同様である。(b)〈証拠省略〉によれば、藤巻十三は右(a)記載の土地を売渡す際に、あわせて、その近隣に所在する訴外小宮制子所有の同町三〇三番の一の土地、訴外清水イソ所有の同町三〇四番の一の土地、訴外野川丈所有の同町三〇五番の一の各土地を右各所有者の代理人として原告に代金坪当一四万円で売渡したこと、藤巻十三は昭和四二年一一月六日訴外藤巻充の代理人として訴外中道機械株式会社に対し岡沢町三〇九番の二宅地を代金坪当一七万円で売渡したことを認めるこができる

が、これらの事例もまた右(a)と同様の由で参考に値しない。

(C) (価格の算定)

三五七番の二、三の土地の価格は一二一番等一団の宅地の価格坪当一三八、五〇〇円の五五パーセントを下らない坪当七六、二〇〇円である。そして、本件三四九番、三五〇番の土地は三五七番の二、三の土地と比較して国道に近接する点はプラスの要素とみるべきであるとしても、前記(1) 認定のような地勢であつてそれ自体独立して利用できない点において三五七番の二、三の土地に劣ることを考慮すると、三五七番の二、三の土地の価格と同価格とみるのが相当である。

(四)  本件三五一番の土地について。

(1)  地勢、位置等について。

原告主張の(1) の事実は公有水路の巾員および本件三五一番の土地の面積の約二五パーセントが高低差八メートルの急斜面であり、著しい起伏を有する画地であることを除き当事者間に争いがない。〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、本件三五一番の土地は樹令百年以上の樹木が繁茂しており、市道から一番奥の四分の一にあたる部分は三〇度前後の東南向の急傾斜面をなしており、それに接する残余の四分の三はゆるやかな斜面をなしていたことを認めることができる。〈証拠省略〉他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  本件裁決の内容に関する原告主張の(2) の事実は当事者間に争いがない。そして、〈証拠省略〉によれば、本件裁決は、本件七〇番の土地の価格、さらに本件一二二番の二等四筆の土地、本件三四九番、三五〇番の土地の各価格との振合いを見て坪当八五、〇〇〇円を算出し、さらに本件土地に五合四勺の残地収用の部分があることを考慮して坪当り八四、六四一円の価格を算出したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。これに対し、原告は本件三五一番の土地に隣接する三五七番の二、三の平坦な土地を基準とし本件三五一番の土地が傾斜していることによる減価をして坪当六九、六〇〇円と評価するのが相当であるというのである。

(3)  本件三五一番の土地の評価について。

(A) (本件裁決の当否)

(イ) 本件裁決の評価についていえば、本件三五一番の土地ならびにその附近においては本件裁決および被告主張にいうような観光、温泉資源が皆無であることは当裁判所に顕著な事実である以上、本件三五一番の土地を観光、温泉旅館に利用することを前提として崖地の有効な利用方法があることを説くことは、客観的、普遍的な土地の利用方法をもつてその土地の評価をなすべき損失補償の趣旨に合致しないこというまでもない。また、駐車場に利用するとしても、平坦地に比較すればその立地条件は劣るといわねばならず、新しい工事方法を用いても工事費が節約できることを保し難いのであるから、本件裁決が本件三五一番の土地が前認定のような傾斜地であることを減価要素として考慮しなかつたことは不当であるといわなければならない。これに反する被告の所見は失当である。

(ロ) さらに、本件裁決が前記のような利用方法を想定しながら、宅地造成費、伐根費を控除することを考慮した形跡のないことも首肯できない。この点に関し、被告はその主張する理由から伐根費は問題とするに足りないとする。しかし、〈証拠省略〉によれば、藤巻権三郎は本件三五一番の土地上の立木について立木補補を得て伐採したが、なお、小木および雑木の根が残されていたことを認めることができ、宅地とするには右のような小木の根といえども伐去せねばならないから、本来伐根費の控除も考慮すべかりしものであつたということができる。

(ハ) このようにみてくると、本件三五一番の土地は当該地域の普遍的用途である住宅用地としての価格を評価すべきものである。

(B) (原告の主張の当否)

(イ) ところで、本件三五一番の土地の価格を算定するにあたつても、地勢、位置、立地条件等の類似する土地を基準として、当該土地との相違点を考慮して修正してその価格を算定していくのが相当である。

〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、岡沢町三五七番の三の土地(三五七番の二の土地は前認定のとおり三五七番の三の土地と同一に高めに評価されているので、もつぱら三五七番の三の土地について論ずればよいと考える。)は本件三五一番の土地の北東側に隣接していること、公有水路を隔てて市道に接していること、約四〇坪の長方形の整地された土地で、訴外藤巻孝所有の建物が建つていたこと、国道からの距離は三五七番の三の土地の方が本件三五一番の土地に比しやや遠距離にあるが、右の差は僅少であることからすれば、本件三五一番の土地の価格を算定するにつき三五七番の三の土地を基準とすべきものとみなし、さらに本件三五一番の土地の傾斜状況に鑑み、大蔵省売払基準に則り減価すべきものとする原告の主張は首肯できる。

(ロ) この点に関し、被告は本件三五一番の土地は独立して、または本件一二二番の二、一二五番の一、一二八番の一の土地と共同して宅地としてはもちろん店舗あるいは工場用地として充分活用できるのに反し、三五七番の三の土地は店舗あるいは工場用地として考える余地はないとして、三五七番の三の土地を基準として本件三五一番の土地を評価することを論難するが、右は単に両土地の地形および国道からの距離(それは僅少に止ること前述のとおりである。)を根拠にし、または実現性の乏しい本件一二二番の二等の土地との共同利用の方法(その実現性の乏しいことは前記(ニ)(3) (A)(イ)参照)を想定した上での立論であり、本件三五一番の土地の前認定のような地勢の現実のもとにおいて店舗用地ないし工場用地としての利用方法がはたして実現性のある通常の用途として考えられるかについて解明されない限り、直ちに採用することはできない。

(C) (価格の算定)

三五七番の三の土地の価格は坪当七六、二〇〇円である。そして、大蔵省売払基準上、土地の傾斜が二〇度乃至四〇度に及ぶばあいは二〇パーセントの減額をなすべきものとされ、土地収用の価格の算定に当りこれに準拠することが許されること前記(一)(2) (D)(ハ)のとおりであるところ、本件三五一番の土地のうち四分の一部分は三〇度前後の東南向の急傾斜面であるから、該部分は二〇パーセントの減額をなすべきである。残部の土地(四分の三部分)も前認定の地勢に徴すれば、平坦地たる三五七番の三の土地に較べ宅地としての価格は劣悪であると認められるから五パーセントの減額をなすのが相当である。したがつて、減価率は(二五%×八〇%)+(七五%×九五%)=九一・三%となる。三五七番の三の土地の前記価格に右減額率を乗ずると本件三五一番の土地の坪当価格は六九、六〇〇円と算定される。

(五)  本件三五二番の土地について。

(1)  地勢、位置等についての原告主張事実は当事者間に争いがなく、本件裁決の内容についてもまた争いがない。

(2)  本件土地の評価について。

本件裁決は本件三五二番の土地を本件三五一番の土地と同様に扱つてその価格を算出し、これに対し、原告は本件三五二番の土地を宅地本位にみて近接する前記宅地三五七番の二、三と同等に評価すべきであるというのである。

〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨によれば、本件三五二番の土地は本件三五一番の土地とその北西側の隣地三五三番山林の境界にあつて、傾斜面を利用して使用されていたいわゆる野墓であつたこと、本件三五一番の土地上の墓地については既に移転補償がその墓地の所有者であつた藤巻権三郎になされていること、収用の実際例において通常墓地は移転補償を除いて近隣の宅地と同一に評価することが一般的であることが認められるのであつて(右認定を左右するに足る証拠はない。)、墓地に市場価格なるものがないとはいつても、直ちに本件のような簡単な野墓のばあいにも被告主張のように「同等の墓地を他に求める費用をもつて収用価格とすべきであり、右価格は宅地よりも高い。」とはいい切れないのである。されば、本件三五二番の土地を近接する三五七番の二、三の宅地と同等に坪当七六、二〇〇円と評価すべきものとする原告の主張は相当であり、それに反し本件三五一番の土地と同一に扱つた本件裁決の算定は不当であるといえる。

(六)(1)  以上(一)ないし田で直定した本件土地の坪当価格を各個の土地の坪数に乗ずると別表(一)「原告主張の補償額」欄の各「補償金額」と一致し、その合計額は金四一、二一九、五四八円となる。

(2)  なお、〈証拠省略〉によれば、前記六九番、七一番、七六番の各土地が昭和三八年一二月二八日に、同一二一番、一二二番の一、一二六番の一の各土地が昭和四〇年二月六日に、同三五七番の二および三の各土地が昭和三九年三月二五日にそれぞれ買収されたことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。今、本件土地評価にあたり基準となした前記各土地の買収価格は本件裁決時たる昭和四〇年八月七日当時の価格に修正して基準とすべきである旨の被告の見解に一応立つて考えるに、〈証拠省略〉によれば、(但し地価の用途地域別平均指数を基準とした。)、昭和三八年一二月二八日、同三九年三月二五日、同四〇年二月六日より本件裁決のなされた同四〇年八月七日までの地価の上昇率はそれぞれ約一五、一一、一パーセントであることが認められるので、前記各基準地の買収価格に右上昇率を加味して前述の算定方法によつてさらに算定すると、本件七〇番の土地については坪当約六、七〇〇円(但し、七六番の土地を基準とした場合。七一番、六九番による場合坪当六、三〇〇円高くなる。)、本件一二二番の二等四筆の土地については坪当約五八〇円、本件三四九番、三五〇番、三五二番の土地については、坪当約八、三八〇円、本件三五一番の土地については坪当七、七一〇円当初の算当定を上回ることになるので、各土地の坪数を右上昇分に乗ずると、結局合計約五六〇万円上昇分が存することとなる。

ところで、前述の算定は、原告の主張の範囲内における判断として、本件七〇番の土地の評価にあたり宅地であることを前提とした評価をしつつ宅地造成費坪当一一、六〇〇円を控除せず、また、本件三五一番の土地についてはその四分の一部分が急傾斜地、右部分に接する残余の部分が緩やかではあるが傾斜しているにもかかわらず宅地造成費を、また、本件三五一番の土地全部につき伐根費を控除していない。しかし、本件七〇番の土地および本件三五一番の土地は宅地として評価する以上、宅地造成費、伐根費を控除するのが本来の仕方である。そして、本件七〇番の土地につき必要な前認定の宅地造成費坪当一一、六〇〇円は、本件三五一番の土地が国道を挾んで本件七〇番の土地と対時する地勢の相似する土地であるところから、本件三五一番の二分の一地積にあたる傾斜部分の宅地造成費としても妥当するとみて妨げなく、また、本件三五一番の土地伐根費としては、本件七〇番の土地の伐根費坪当二、三〇〇円がそのまま妥当するとみるのが相当である。そこで、右各土地の坪数(但し、本件三五一番の土地の宅地造成費算出の場合は半分の坪数として)をそれぞれ乗じて控除さるべき総額(本件七〇番の土地については宅地造成費、本件三五一番の土地については宅地造成費および伐根費)を算出すると金約六一万余円となる。

ところで土地収用によつて生ずる損失補償額は、土地が数筆に亘る場合でも、包括的にその金額を定めることを要し各収用土地別に各個に定めるべきものではないから、前記地価の上昇分が金五六〇万円であり、一方控除されていない宅地造成費、伐根費は金六一〇万余円であつて右上昇分を上回る関係にあるから、結局前記(1) の金四一、二一九、五四八円なる価格は相当範囲内にとどまると認めることができるのである。

第三、結論

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを証容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蕪山厳 佐藤歳二 桜井康夫)

物件目録〈省略〉

別表(一)~(七)〈省略〉

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